燕岳(2763m)に登る
平成16年8月28日(土)・29日(日) 天候 曇り





台風が近づいてくるとの気象予報であるが、なんとかこの両日は大丈夫だと判断して、視覚障害者二人、晴眼者4人で燕岳に登ることにした。 隊長のHさんやN夫妻・視覚障害者Tさんとは何度も登山の経験がある。今回は、高校時代からの知り合いのMさんも参加しての登山だ。
5時00分にMさんの車で高岡を出発。5時30分、小杉駅でTさんと待ち合わせをして、6時30分皆さんとの集合場所「立山インター」に6時20分に到着。車2台で、ひたすら中房温泉の登山口まで走る。

有明荘の傍らに50台ほど止められる駐車場で、ザックを背負う。中房温泉登山口「1462m」から北アルプス三大急登の一つである燕岳の登山、10時00分開始。大きな深呼吸をして、足を1歩踏み入れる。 樹林帯の中、ジグザグの急登な階段の山道をひたすら登る。山道は整備されていて、視覚に障害を持っている私にも登りやすい。
やがて、痩せた尾根状態になる。第一ベンチに10時50分到着。
中房温泉へ1.0km、燕山荘へ4.5km、標高1660mの指導票がある。 樹林帯の中の急登の山道は続く。途中で合戦小屋の荷揚用のケーブルの機械音を聞きながら登る。
11時50分、第二ベンチに着く。中房温泉へ1.7km、燕山荘へ3.8km、標高1820mの指導票がある。ここで、昼食をとる。生憎、ガスがかかり、周りの風景は望めないらしい。咽の渇きを潤し、気合を入れて出発。山道は花崗岩の狭い階段に変わる。
13時00分、第三ベンチに着く。中房温泉へ2.5km、燕山荘へ3.0km、標高2000mの指導票がある。山道は、木の根がはびこる歩きにくい道に変るが、前とは違い急ではない。
天候の良い日には富士山が見えるという富士見ベンチに、14時00分に到着。中房温泉へ3.1km、燕山荘へ2.4km、標高2200mの指導票がある。 疲れてきているが、ここまで来れば合戦小屋はすぐ先である。
小学生の男の子がいとも簡単に私たちを追い越して行った。後を両親が息を弾ませ、あえぎながら登っている。本当に子供は身が軽い。 ジグザグの道を息を切らして登ると、緩やかな尾根にでる。それを大きく右に回ると、合戦小屋(2350m)に14時50分に到着。 さすがに、名物の西瓜は甘くて美味しい。宿泊は出来ないが、コーヒーやうどんもある。大きなテーブルで充分に休憩を取って出発。
ダケカンバやナナカマドが多くなった道を1歩1歩踏みしめて頑張る。 合戦尾根の頭、15時30分到着。 ガスがかかり雄大な山々の景色は見ることは出来ない。 ここからの槍ヶ岳の山容は素晴らしいとのことだ。 ここまで来れば「燕山荘」まで、もう一踏ん張りだ。
最後の力を振り絞るように足を運ぶ。燕山荘(2680m)に16時30分到着。 燕山荘前からは、天候が良ければ、常念山脈、穂高連峰、槍ケ岳、笠ケ岳、双六岳、三俣蓮華岳、黒部五郎岳、鷲羽岳、ワリモ岳、水晶岳、野口五郎岳、烏帽子岳、立山連峰、剱岳、針ノ木岳の大パノラマが眺望出来るそうだが、全くガスに包まれて周辺は白一色である。 連山に沈み行く夕陽も見ることは出来ない。宿泊手続きを取り、別館の自炊場に向かう。 早速H隊長がコックに変身して、雲の上の飲み屋が開店された。 献立は昆布〆の刺身とマーボ茄子、鮭のホイル包み焼き、味噌汁である。 生ビールで乾杯。雲の上での手作りの「遠い遠い飲み屋」での酒は、さすがに美味い。話が弾む。至福の一時だ。
今日は19時から、室内楽のクラシックコンサート(毎年8月の第4週の土曜日に開催)が始まるので、酒宴は一時中止して、本館に移動する。 先ず、燕山荘オーナーの赤沼さんの軽快で巧みな話術に引き込まれ、次いで、アルペンホルンの演奏を聞く。長さ4mの筒から出る初めて聞く音色に感動する。 山荘でのコンサートは、演奏者も観客も同じ山道を登ってきた仲間である。音楽を通して会心の融合を随所に感じ取った素晴らしいコンサートであった。 最後に「早春賦」を合唱して、コンサートは盛大な拍手の余韻を残して終わった。 コンサート終了後、アルペンホルンとチェロに触らしてもらう。視覚障害者でなくては得られない特権である。この時ばかりは視覚障害者も悪くないと、どこまでも自分の都合・・・。
炊事場に戻り、二次会が始まる。私たち6人だけが異次元の世界で楽しい酒宴をしているような心の平穏と安堵を感じる。なんともいえない心の落ち着きを感じた。 少し残念であるが、遠い飲み屋の閉店は早い。今日の素晴らしい出会いに感謝しながら、10時00分に床に就く。

29日、山小屋の朝は早い。5時00分に起床。日の出を楽しむ予定だったが、生憎、曇天である。 N夫妻とMさんは雷鳥に出会ったとのこと。 朝はポタージュスープとコーヒーとパン。こんなにゆっくりと朝食を楽しんだのは久しぶりである。
燕山荘7時10分にザックを背負い「燕岳」山頂を目指す。 花崗岩の白さとハイマツの緑の影が、墨絵のように、残された微力の視野に飛び込んで来る。
高い奇岩を誘導ロープを放して岩を手で確かめて登る。 燕岳7時35分登頂。感激である。 残念ながら周辺の連山のダイナミックな風景は曇天で見ることが出来ないが、次回の楽しみにして記念写真を撮って下山。途中、大きな岩に落書きがあるとのこと。 無限の時間の流れの中で作り出された畏怖さえ与える岩に刻まれた落書き。それを思うと、腹立たしさというよりも痛々しく胸が締め付けられるような感情が胸に込み上げてきた。
再度「燕山荘」に戻り、中房温泉の登山口まで下山。 途中休憩していると、昨晩の演奏者の皆さんが下山してくるのに出会う。楽器はケーブルで運んでいるとのこと。H隊長は山の歌を口ずさみながらも私の誘導に余念がない。
13時00分、無事登山口到着。 早速、有明温泉で疲れをとっていると演奏者の皆さんも入浴。話が弾んで来年も再会の約束をする。
途中昼食をとり、19時00分高岡着。

下山山行タイム
燕山荘       08:10
合戦尾根の頭   08:50
合戦小屋     09:20
富士見ベンチ   09:50
第3ベンチ    10:30
第2ベンチ    11:20
登山口      13:00

曇天で素晴らしい展望は見ることは出来ませんでしたが、雨にも遭わず、室内楽クラッシクコンサートを聞き、山小屋で自炊して皆さんと過ごした一夜は忘れられぬ思い出になっています。 H隊長、N夫妻、Mさん、本当に良い思いで有難うございました。そしてTさんとは登山だけではなく、障害者の自立を目指して共に歩みます。


モリアオガエルの卵

合戦小屋付近

カワラハハコ

リンドウ

アザミ

合戦尾根の頭

アオノツガザクラ

燕山荘

ホルン

燕岳クラシックコンサート

雷鳥

ハクサンフウロ

コマクサ

ミヤマコウゾリナ

燕岳山頂

燕岳山頂

燕岳登山口(中房温泉)


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