「文部科学省登山研修所冬山前進基地」に登る 平成15年4月19日[土曜日]




19日には「大熊山」に登山の予定でしたが、登山口まで自動車が入れないという 情報があり、計画を変更して 「文登研」から「雪美台」に登り湖水で昼食「のぼり4時間・下り3時間」の 予定で隊長とコック長・視覚障害者二人 で計4人天候を気にしながら登りました。
隊長は、このルートを2月に3人で腰までの雪をラッセルして3時間で2km足らず進むのが 精一杯で下山してしまったということでした。
一週間前、隊長は独りで登り道もしっかりしているから大丈夫だということで、始発に乗り富山駅で待ち合わせ。

「文登研」の、正式名称は「文部科学省登山研修所冬山前進基地」です。
冬山のリーダーの養成のために全国から募り、研修するための所です。ここも夏 道がないために冬しか登山できません。
去年研修中に独りが滑落して死亡。指導員の責任が問われ全国的なニュースにも なりました。

2月に喫茶「クムジュン」から人津谷に向かい3時間かかってラッセルしたという 道を30分で通過。
雪崩とともに、落ちた岩がダムのすぐ傍にあり、その岩石を横にして登りを進め ました。 途中で雪崩の跡が残っている箇所を渡り自然の冬の厳しさの一端の跡を感じさせ られました。

しかし、「猩々袴(ショウジョウバカマ)」は薄い紫の花をつけ、鶯が盛んに鳴き、すぐ傍の木から私た ちの姿に驚きキジ鳩が羽音を残して飛び立ちました。山も完全に春に模様替えを しています。

明日、立山は全ルートを開通します。そのためか、ヘリコプターが荷を運んで何 度も往復していました。

緩んだ雪道は、足にかなりの負担をかけます。2時間ほど汗をかきながら登った後、、 少しの休憩を取ることにしました。
隊長が「冬山も終わりだな。登りたい山もたくさんあったのに。」と、頂上の方 を眺めながら、コック長に淋しそうにポツリとつぶやいています。
まだ、10時を過ぎたばかりなのにここで飯を食べ、下山するとのことです。
確かに天候は良くなくいつ雨が降り出すか分からない。しかし下山の理由が天候 だとは思われなかったので下山の理由を聞いてみました。 文登研までの間に雪が欠落している箇所がある。この状況だとたとえ、ロープを 張ってその場をしのいで欠落している所を登ったにしても、雪のある所はもっと 危険だ。木の下の根の周りは空洞になっていてこれだけ雪が緩んでいると、足を 乗せた途端に体供に2・3mも落ち込んでしまう事があるそうだ。

岐阜県の「大鼠山」の下山の時、ワカンジキと長靴とを雪の中にとられ、掘り出 すのに苦労したことを思い出した。
この2・3日、20度を越す気温でかなり雪が溶けたらしい。
下山が決まれば、雨の降らない間にコック長の料理を楽しめば良い。隊長はガス ボンベと鍋のセットを持ち出して、私に使用方法を教える。次の登山からこれ と新しく購入したデジタルカメラの保管が私の役割だそうだ。
「サポートはするがボランティアはしない。登山の指導は押し付けるが人生観は 押し付けない。」これが隊長の口癖である。
鍋のセットとデジタルカメラならば会の重い道具や食材・水を背負うよりは楽である。
この1年間、自分以外の荷物を背負ったことはない。私の荷物も会の皆さんに背負 って貰ったことはない。せめて自分の荷物は自分で背負い、何とか遅れずに迷惑 をかけないようにしてきた。これが私のこの会に対する精一杯の努力であった。
会の役割を与えてもらうということは、私を単なる視覚障害者ではなく、山の仲間として受け入れてくれているようだ。
最近、個人山行の誘いの電話もよくかかってくるようになった。

彼らは他人の命の危険には、自分の命までかけても見捨てない強者である。このことは 何度も経験している。
山を愛し、人を愛し、そして山道の横に咲いている一輪の花にも話しかける優し く強い人たちである。
酒を飲んでは愚痴を吐露し、愉快に騒ぐ子供みたいな男たちである。

この一年間の彼らとの付き合いは私を大きく成長させてくれた。

コック長が作った美味い焼肉を食べているうちに雨が降り出してきた。すぐに雨 具を着て焼肉が「シャブシャブ」にならない前に腹におさめた。早々に後片付け をして下山。

コック長は、30歳後半か、40歳前半であろう。毎週「土曜日、日曜日は登山とス キーで過ごしているとのことだ。経験、体力供に一番充実している時である。
下山の速度は歩きではない。駆け下りるような速度で私を誘導。それでいて頭上の 枝や危険な箇所の心配りには余念がない。隊長たちをかなり引き離してしまった。
途中で彼らを待って休憩。姿を確認すると、またかなりの速度で下山。これだけ の速度で歩行した(自然の中を走った)のは何十年ぶりであろうか。幼いときを 思い出し、心の弾む思いをしながら下山。
11時には、喫茶「クムジュン」の駐車場に到着。残念ながら喫茶店は明日立山の 全ルートが開通なのにまだ開いてはいない。
近くの「とんがり山」(UFOで有名な山)は2時間もあれば往復できるそうだ。雨 足がだんだん強くなってきたので、「湯豊温泉」(UFO(ゆーふぉ)おんせん) に行く事にした。
雨で登山が中止になってもまた良いものである。 入浴料金600円を支払って昼間から温泉を楽しむ。久しぶりにゆとりのある充実し た日を送った。有り難い一日であった。

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