南保富士「721.7m」に登る   平成15年5月11日(日曜日)




去年、雨天のため中止になった「南保富士」に登りました。今回も天気予報では午後から雨の予報7時30分に富山駅の北口で皆さんと待ち合わせる。 魚津からの人たちと9時00分 朝日インターにて全員集合。 視覚障害者9人を含めて自動車6台で七重の滝(しっちゃのたき)を見ながら登山口経由で歩きました。

9時15分、登山開始。
安山岩の断崖に作られた急坂な道を汗をかきながら歩を進めました。車道からかなり奥に入ったこの山道までは山菜取りの人たちも踏み込まないのであろうか。周りには「蕨」がたくさん生えていました。
山道は雪のしたにあった落ち葉で覆われており、まるで絨毯の上を歩いているような弾力を足下で楽しみながらの歩きです。 周囲は柔らかい新緑で包まれた風景・道は落ち葉で覆われた弾力のある山道。雪国の山でしか楽しめない最高の気分。自然の大いなるゆっくりとした時間の寸断のない流れを味わいながらの歩きです。
幸にも雨はまだ降っていない。もし、雨になれば落ち葉と赤土の道だからかなり足が滑り、足がとられて危険な道になるだろう。下山ままでは雨が落ちないようにこころで念じながら歩く。
途中、橋の架け損じた所・横河が崖の狭い道等があり、細心の注意をして歩を進める。
危険な場所をいち早く全員に告げているのは先頭グループを歩いている小学校二年生の女の子。(去年立山登山・今年はスノーシューを履いての吉峰公園・雷鳥バレーでのスキーを共にした元気な女の子) 「ここは、眼の悪い人は、注意してください。下は水です。そんなに高くはありませんから落ちても濡れるだけです。」と高い澄んだ大きな声で告げている。 明るく屈託のないこの名ガイドの声に元気付けられ40分ほど歩いて滝見台に到着。交差60m七段から成る滝なので「七重の滝の名が付いている。生憎、今日は四段しか見えていないそうだ。 滝を見ながら休憩を取った後、「南保富士」の登山口に向かう。
回り道をしたにもかかわらず、皆さん元気である。天候のこともあり登山口では休憩もしないで、頂上へと足を運ぶ。
私は最後尾を歩く事にした。今日のサポーターはご主人の転勤で富山にこられたNさんである。大阪の「風車」の会員で視覚障害者の登山のサポートはベテランである。小柄で長い髪、そして京都弁で話す雰囲気からはよそうはできないのだがのぼりの強さは山岳会の山男達も舌を巻くほどである。
今日は旦那様も同伴、サポーターとして魚津の初登山の視覚障害者のサポートにあたっておられる。
Nさんのサポートは、無駄がなくいつもながら感心させられる。頭上の木はもちろん、高い段差はクロックポジションで足の方向を指示。

植林された杉の林道を過ぎカラマツ林を通り抜け・赤松の木が生えている広い場所に出た。ここからは「毛勝岳」、「僧ヶ岳」、遠くに「剣岳」が見えるそうである。しかし、今日は生憎の曇天、周りの柔らかな新緑の景色は目を喜ばしているが遠くの山は望めない。
少し休憩をしてまた歩を進めた。
耳には「キビタキ」、「鶯」の声が盛んに飛び込んでくる。
尾根道を登り急坂道を登りきると辺りはブナ林になる。この山は深まり行く晩秋の季節にも趣のある山に違いない。

3分の2ほど歩いた所で1組が道端で休憩している。かなり体力を消耗しているらしい。私も少し歩みを遅め後に続くように声をかける。何度も声をかけながら後に続いている事を確認しながら登る。
頭上に空が広がり低い潅木になった。頂上は近い。自分にも言い聞かせるようにして後続に大きな声で伝える。最後の急登だ。段差のある道を登っていると上から頂上到着の歓声が聞こえてきた。
12時15分全員「南保富士」の頂上に到着。
頂上には三等山角点があり、石物が安置されていた。微笑んでいるような顔をそっと手で触り掌を合わす。
快晴であれば日本海の波頭・遥か彼方に能登半島・・黒部川の扇状地・旭岳・毛勝山・剣岳が望めるそうだ。 説明を聞きながら、私は心の中で青空と豪快な日本海・去年登った僧ヶ岳・毛勝山・剣岳を画いた。晴天ではないので強烈な実感は伴わないが曇天でも素晴らしい景色を思いかべる事ができるのは視覚障害者の特権かも知れない。
食事をとっている途中で心配していた雨がポツリポツリと落ち出した。まだ本降りにはならないが、昼食時間を短縮して早めに下山した方が良いようだ。
足元の状況判断の出来ない視覚障害者にとって下りはかなりの不安を感じる。わずか1cmの空間でも千尋の谷に思える。これは薬師岳の沢沿いで足を前に出せなくなってしまった膚に染み付いている私の感覚である。
山はただ登れば良いものではない。全員頂上を踏めば全員無事に下山。私も雨具をつけ最後尾から下山。

 名調子で危険を告げる声も聞こえない。彼女も疲労しているらしい。
1組が体力の消耗からではなくくだりの不安から徐々に遅れ出した。サポーターはこの会随一の屈強のBさんである。心配はないが、私たちは隊長の組と歩く速度を落とした。山道の横に咲いている雪餅草・マムシ草・山つつじ・山百合・山椒の木・雄蕨と雌蕨の違いとその料理の仕方等を隊長から聞きながらも、後続を気にしての下山である。 予定よりも少し時間は遅れたが全員心配していた雨にも遭わず無事登山口に下山。先頭グループはビニール袋一杯の蕨を摘んでご満悦である。

今回の登山は私を一回り成長させてくれた登山であった。

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