金剛堂山(1650m)に登る  平成15年7月19日 土曜日 曇り 風強し




この山は去年、「三ツ星山の会」の人たちと、越中八尾「オワラ風の盆」で有名な大長谷から登山の経験がありますが、今度は合掌造りで有名な五箇山の利賀村の「橡谷(トチタニ)登山口」から登りました。
この山は山岳信仰の霊山で、前金剛・中金剛・奥金剛の三つのピークから成っています。 藤原義勝の神鏡が前金剛の祠に祀られ、中金剛には「飛騨信濃 木曽の峰々 みな見えて 西はのこさぬ 白木山かな」の富山藩10代藩主 前田利保の歌碑があります。この歌のように、頂上からの展望は素晴らしく、人形山、白木峰、立山連峰、白山、乗鞍岳を見ることが出来ます。 春にはアカモノ、ゴゼンタチバナ、イワイチョウ、ツマトリソウ、矢車草の群落など、花が咲き、眼を楽しませてくれ、秋はブナ、橡、各種のツツジの紅葉を楽しめます。 今回は、昨年共に「薬師岳」に登山した同僚の田原さんと、「白山」に登る前に二人でこの山を登る事にしました。

生憎、昨晩はかなりの雨。いつ雨が降っても不思議ではない空模様。様子を見て登山できなければ、近くを散歩して温泉を楽しむ事にして、7時に高岡を出発。
庄川町を過ぎ、大牧ダム湖水(近年では「鳩谷ダム」と呼ばれることが多い)を右にして、1時間ほど車を進めると「脇谷の水」に到着。道路の傍に、直径10cmほどの管から水があふれ流れ出ている。横の斜面には小さな段々にアジサイの花が植えてある。運転手の眼と咽の渇きを潤すのには最高の設定である。しばらく車を止め、豊かでまろやかな水を頂いた。 利賀村役場を通り、上百瀬集落の天竺温泉でフィルムを買う。帰りには、この温泉が楽しみだ。
橡谷登山口(水飲み場・トイレ有り)(1346m)から、9時登山開始。 登山道に足を入れると、木々の強風に揺れる凄まじい音。列車の通過音よりも、はるかに大きな音が頭上から襲いかかってくる。百瀬川のせせらぎも途絶えがちに聞こえてくる。 時々、鶯の声が激しく揺れる木々の音に混じって、やっと聞こえてくる。 私たち二人の会話さえ許さないような、自然の凄烈な音である。 道は、昨日の雨にもかかわらず、水溜りの箇所はあるが、そんなにぬかるんではいない。たぶん風が表面を乾かしたのだろう。 身を縮ませるような激しい木々の音はするが、風は木々によって遮断され、登山には殆ど影響はない。
橡谷登山口から1km、2kmの提示版を過ぎて、登山口から1時間あまり歩くと、「ブナ原生林」の表示板が立っていた。 山道の左側傍らにブナの大木があるからとのことで、ブナの木を抱えてみた。一抱えは出来ない、どっしりした大木であった。ブナの木に頬擦りをしてみると、冷たい木の命のエネルギーが頬を伝って感じられ、なんとも言えない快い気持ちになった。風雪に耐えて、あまり高くはないとの事だが、本当に安らぎを与えてくれる。このブナの木を、再度頬擦りをして強く抱きしめ、別れを告げ再び歩き始めた。 両側の開けた所はさすがに風当たりは強い。周りはガスの乳白色で、風景は望めないらしい。ただ、ひたすら歩く。 登山者も全くいない。このまま私たちを風神の住む世界に誘い込むのでは。なんとも言えない不思議な心境にさせられた。 登山口から提示版の3km、4kmの間は、一旦道は下りになる。 春にはこの下りにはムラサキヤシオ、ツバメオモト、アカモノ、ツマトリソウ、イワカガミ等が咲き乱れているそうだ。 下り終えて登り始めた時、木々の葉の揺れる音に混じって赤翡翠(アカショウビン:雨乞い鳥とも呼ばれている)の鳴き声が一声。間違いないとは思ったが、後に続く一声が聞こえてこない。残念ながら、確実に確認する事は出来なかった。
11時45分、山頂到着。頂上は360度の素晴らしい展望のきく所である。 今日は全く何も見えないとのこと。それどころか周りに樹木がないために強風を真正面から受ける。食べ物の袋を開けるのも大変である。風のため汗が冷え、体が寒くなり、12時早々に下山。しばらく歩いた時、木々の凄まじい音を破り(キョロロロー、キョロロロー、キョロロロー)赤翡翠の声。なんとも言えないもの悲しい声で3声。初めて聞く声である。この鳥の鳴き声を聞きたいためにだけ出かけたことも何度かあった。ここで聞けるとは・・・・・、感激である。足取りも軽く、下山。天候さえも陽が射して来た。ガスの切れ間からスノウバレィが下方に見えるらしい。田原さんは写真機を取り出しシャッターを切る。 ゆとりが出てきたのか横道の花にもカメラを向けている。 しかし、風は止む事はない。下山を急ぐ。
14時15分橡谷の登山口に到着。 天竺温泉「入浴料金500円」でゆっくり疲れを取り、16時温泉を去る。
18時高岡着。今も、赤翡翠のもの悲しい鳴き声が耳に残って少し興奮気味です。 天候を考慮して、ただひたすら山道を歩いた登山でしたが、幸にも雨にも遭わず待ち焦がれていた赤翡翠の鳴き声を聞くことが出来た素晴らしい登山でした。


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