「和気アルプス」に登る 平成16年3月20・21日 晴れのち曇り




岡山県で開催される「第9回全国視覚障害者交流集会」に、登山仲間の山田さんと松村さんと参加することになった。彼らとは、登山だけでなく、三人だけの忘年会を毎年鄙びた山里の温泉でしている。 三人寄れば文殊の知恵と言われるが、この仲間はそうはいかない。三種三様で、趣味も違う。それでいて、いつの間にか誰かの意見が自然に実行されていく。不思議な仲間だ。
折角の遠出だから、姫路の書写山にある円教寺に立ち寄ることになり、19日の朝7時に高岡駅で待ち合わせる。 列車は、当然喫煙車である。自分の健康を害し、人に嫌われ、高い税金を払っても、煙草を愛する私の意志の強さを、彼らは暗黙のうちに了解している。とかく、愛煙家にとっては住みにくい世になってしまったものである。
姫路駅で昼食を取り、バスで「書写山」に向かう。途中左側に姫路城「白鷺城」が見えているとのことだが、記憶をたどっても思い出す事が出来ない。
書写山ロープウェィに乗り、円教寺へ。
この寺は、西国三十三観音霊場第27番札所である。『西の比叡山』とも称されている。 妙光院 十妙院 湯屋橋 護法石(弁慶石・弁慶のお手玉石) 摩尼殿 大仏 瑞光院 白山権現(十一面堂) 大講堂 食堂(じきどう)などを巡り、老樹の枝で囲まれた茶店で甘酒を飲み、姫路駅にもどり、一路今夜の宿泊場所の吉永駅に向かった。
吉永駅に着いた頃は陽も傾き、酒を好む男の独特の感情であろうか、どことなく口元が淋しい。 私は辛党・松村さんは甘党(姫路駅では、すでに、かん川本舗の塩味饅頭を3箱も買っている)・山田さんは両党、それでも行く先は唯一つ。 高級料理店やスナックはこの三人には不似合いだ。赤提灯の店を探す。飲兵衛歩けば飲み屋にあたる。丸順の名の飲み屋を見つけ、何の躊躇もなく暖簾をくぐる。
先ずはビールで乾杯。後は好きなものを飲み、好きなものを食べる。私はホルモン焼に日本酒。いつものように三人の会話が弾む。気がつくと常連客が二・三人来ている。居酒屋は誰とでもすぐに意気投合できる雰囲気を持っている。ケンチャンと呼ばれている初老の男性が声をかけてきた。富山県から来たことを話すと、娘さんが高岡の鐘紡の会社に3年勤務していたと言う。この会社は、私の家から徒歩15分の所にある。こうなると、前世からの知人のように話しに話しが咲き乱れる。 名所・名跡、特に松茸の話は尽きる事はない。地酒の「濁り酒」を勧められるままに遠慮なく頂く。 別れを惜しんで宿泊所の「岡山県青少年教育センター閑谷学校」に向かう。
到着した瞬間、澄んだ声で「炉扇さんですか?」。こまくさHCのKさんであった。Kさんとは掲示板を通じて何度となく文の交換をしているが、お逢いするのは始めてである。 ロマンチストで細かい心配りが出来、それでいてしっかり者、私の想像していた通りの人であった。視覚に障害のある私には、よく表情は分からないが、お互いに握り合った手から、出会いの喜びがしっかりと伝わってきた。
代表者会議を終え、就寝。
今日も良い日であった。人と人との結びつきや出会いの喜びを感じながら、明日の和気アルプスの登山を思い巡らしつつ眠りに入る。

20日、6時30分起床。
8時30分、開会式終了後各班に分かれてバスに乗車して登山口へ。
私と山田さんは、和気アルプスコースの第1班。 10人の班員で、山田さんはG.R。 松村さんは、熊山登山コースの第4班。 和気アルプスコースは4班編成(53人)で、10時に先ず「和気富士」に向かって登山開始。
私は何度もこのコースを体験しているMさんのサポートで、先頭を歩く事になった。私が遅れるとこのグループ全体の時間の遅れにつながる。役不足とは思いながら気合を入れて登り始める。 ジグザグの階段を20分ほど登ると、「和気富士」の頂上に到着。テレビの電波塔が、至る所に立っているらしい。
少し休憩を取って、次のピークに向かう。
アップ・ダウンが続き、観音山に到着。ここでは京都の「大文字焼き」のように、漢字「和」文字焼きが8月16日にあるそうだ。
稜線歩きを楽しみながら岩山に向かう。
至る所に、黄色・ピンク・紫の三種類のツツジが咲き誇っている。 岩山には2001年8月に雷で焼失した大木が、今も痛々しく残されていた。 山道は、岩が剥き出しになっているが、周りは開けて、眼下には吉井川がLの字に流れているのが見えるとのこと。指で川の流れを追いながらJRに沿って、悠然と流れている吉井川を心に描いた。
足取りも快調だし、タイムも余裕がある。 少し休憩を取って、次のピークに向かう。 今度は急坂な登りと、勾配の強い下りの繰り返しが続く。 ゴツゴツした岩場や荒々しい縦走路は、さすがにアルプスの名にふさわしい。 涸沢峰(からさわみね)で、1班・2班が昼食。3班・4班が少し遅れ気味だが、問題はないようだ。
昼食をとりながら、初めて会った人たちと、昔からの知人のように話が弾む。登山でしか味わえない心の結びつきを感じる。この時間は本当に楽しい。
エネルギーを腹に収め、一息入れて神ノ上山(こうのうえやま)(370m)頂上に向かう。ザレた急坂や狭い岩場の道は、登山の醍醐味を感じさせる。 頂上には、私設の便所が2箇所設置してあった。こまくさHCの皆さんのあたたかい心の配慮に、ただただ、感謝する。 今年初めて聴く鶯とヤマガラの鳴き声を楽しんでいると、雨がポツリと頬に落ちてきた。大雨になるような天候ではないが、少し休憩を早めて下山する。
ロッククライミングできる鷲ノ巣岩を、左後方にして下山。山道はザレた急坂でかなりの勾配で滑りやすい。段差もかなりある。途中、一箇所ロープが備え付けてあり、細心の注意を払って足を運ぶ。 下り終えた所には、エメラルド色の四角い溜池の「宗堂池」が、私たちの和気アルプスの登山をあたたかく迎えてくれているように微笑んでいるようであった。
予定の時間より少し早かったが15時40分全員無事下山。
今日、登山した和気アルプスの稜線を指で確かめて由加神社に待機しているバスに乗った。 夕食後、私は歌う会に参加して、皆さんと肩を組みながら歌った。 お陰様で、今日も皆さんと楽しい日を過ごす事が出来た。ただ、感謝して眠りにつく。

21日、伊部町「備前焼」散策。
どこへ行っても、頭から酒が抜けないらしい。結局、酒に関する備前焼のビールマグと舟徳利を買い求める。
12時閉会式。
9県「三ツ星山の会を含む」の代表による会議で、2年後第10回全国視覚障害者登山交流集会は、富山県で開催となった。皆さんと2年後の再会を約束して別れる。
私たちの珍道中は、「後楽園」と足が進む。 梅は盛りを少し過ぎて、桜が話しかけると、今にも開くほどのつぼみ。春に向かって時間が流れる草木の息吹を膚で感じて後楽園を去る。
高岡着。20時30分。
山田さんと、早速、駅の地下の居酒屋で旅の労をねぎらい乾杯。 23時帰宅。

皆さんのお陰で、素晴らしい登山と旅をさせて頂いた。ただ、合掌して床に就く。

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